先日「神ってる」が今年の流行語大賞に輝きましたが、それとは別に「今年の新語2016」というのが発表されました。
やっているのは三省堂で、「辞書に載ってもおかしくない言葉」がコンセプトです。
ですので「神ってる」は入っていません。
大賞に選ばれたのは「ほぼほぼ」。
なるほど、「ほぼ」を二つ重ねて強調したものですね。
「ほぼほぼ」は1949年の国会会議録にも載っていたそうです。
ちなみ私が生まれた年です。
そんな古くからあった言葉がようやく今、開花したのでしょうか。
ほかに2位に「エモい」、9位に「エゴサ」が入っています。
「エゴサ」はエゴサーチの略だそうです。
「エモい」はエモーショナルだという、すごくいい意味の新語なのですが、なんか「キモい」を連想させます。
それと、われわれの世代(私だけの可能性もありますが)だと「エモ」は野球解説者の江本氏を連想してしまいます。
たしかに、江本氏は型破りなところのある方なので、エモーショナルで合っているかもしれませんが、どうもしっくり来ません。
さて、新語の話のあとは、旧語の話です。
『昭和のことば』(鴨下信一 文春新書)という本があります。
著者はTBSの演出家だった人で「ふぞろいの林檎たち」など、数々の名ドラマを手がけた方です。
内容は、昭和まで使われていた味のある言葉が平成になって大量死しているので、それをいまのうちに記録しておかなければ、というものです。
わかりやすくいえば「死語」についてです。
さすがというか、さまざまな教養・教訓に満ちていて、面白く読めました。
その中から「出世払い」の話を。
ある脚本家が、少なくはない額の金を若い人に渡したそうです。
そのとき「出世払いでいいよ」と、常道の言葉を添えました。
しかし、その人物は、けっこう名を知られてきたのに、一向に返そうとしないので、
「だいぶ出世したんだから、そろそろ返してよ」と言ったそうです。
すると相手は「いやあ、あのとき助かりました。少しは世の中に認めてもらって、少しは恩返しができました」と、言っただけなそうな。
どうやら「出世払い」を、出世をすることで返したと解釈しているらしいのです。
冗談かと思いきや、ほかにも同様の例があったとか。
「出世払い」とは出世をしたら、お金を返すことだと思ったら、どうやらそれも違うようです。
正しくは「社会に出たら、すぐ返す」そうです。
そりゃそうですよね。
「出世してないから、まだいいや」なんて言っていたら、いつになるかわかりません。
いまや「出世払い」とは、出世しようがしまいがそのままもらってよいものになっているのかもしれません。
「昭和のことば」が通じなくなっています。