私たちが使う言葉のルールは、現代仮名遣いを元にして、原則(本則)と例外(特例)を明記しておくことで成立しています。
ただ、それに当てはまらないグレーゾーンも存在します。ここは許容範囲となります。
出版界では、この許容範囲は狭いといえます。そう、出版界は狭量なのです。
なぜかというと、許容範囲を広げると、出版社、校正者によって、言葉遣いが異なり、共通ルールが存在しなくなるからです。となると非常に不便でやりづらいのです。
ですので、こちら編集サイドのやり方に、著者の方から「広辞苑には、私の書き方も載っているので、正しいのではないでしょうか」と言われると、「えーと、はあ、そうですね」とあいまいな返事をしてしまいがちです。
国語の番人ではないので、反論しても、しかたありません。丁寧に説得する編集者もいるかもしれませんが、著者がそこまでこだわるのであれば、従うのもサービスの一環になるとも考えられます。
ところで、許容に関して最近、私が気になっているのが、人が亡くなったときに使われる、「享年」という言葉です。
たとえば、90歳で亡くなった方について、「享年90」と、歳を付けないのが正しいと思っていましたが、「享年90歳」となっている記述をちょくちょく見かけるようになりました。
もともと、享年は満年齢ではなく、数え年で表していたので、そこで、すでに実勢とのギャップがあります。現在は満年齢でないと困ります。ですので、享年に歳を付けても問題ないのでしょう。
ほかにも、「雨は振るわ、風が吹くわ、でさんざんだった」という文がありますが、ベテラン編集者だと、違和感があって「雨は振るは、風が吹くは~」が正しいとすることもあります。
でも、これは、「わ」でよいことになっています。
許容ではなく、例外ですね。つまり「わ」が例外として認められ、「は」が許容の対象となるわけです。
遠い、いや近い将来「こんにちは」をふつうに「こんにちわ」と書く時代が来るかもしれません。